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相続登記義務化の効果(期待する効果は限定的なのではないか)

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相続登記義務化の効果(期待する効果は限定的なのではないか)

相続登記義務化の効果(期待する効果は限定的なのではないか)

2024/02/28

2024年4月1日から相続登記が義務化されることになっています。これは、かなりドラスティックな事です。これまで、不動産登記は義務ではなかったからです。日本では、一部の事柄を除き、登記によって、所有権移転等の効果が発生するのではなく、登記とは関係なく、当事者の意思表示(もしくはプラス代金の引渡し)により物権変動が発生し、登記とは、その物権変動につき、第三者対抗要件の役割を果たしていたのです。そして、対抗要件に過ぎない登記を申請するかどうかは、当事者の判断に委ねられていたのです。登記は義務ではなったのです。

相続登記義務化以降も、相続登記(所有権移転登記)が対抗要件に過ぎないという事には変わりはありません。その制度自体は変更せず、これまでするかしないかは当事者の自由であるとされていた登記が義務化されたのが、今度の相続登記義務化なのです。これはかなり、劇的な変化だと思います。

では、なぜ、そのような劇的な変化であるような制度変更がなされたかというと、その目的は、所有者不明土地問題を解消したいからです。日本全国には、所有者不明土地がかなりたくさんあり、そのために、買収が困難で公共事業が出来ないなどの不都合が生じ、その不都合が無視できないくらいになってきています。所有者不明土地問題を解消しないと、河川改修や道路整備がままならない状態になってきており、それを解消するための方策の一つとして、相続登記義務化の制度がスタートしたわけです。

しかし、本当に、相続登記義務化は、所有者不明土地問題の解消につながるのでしょうか?今回はその観点から、相続登記義務化について考えていきたいと思います。

(物権の設定及び移転)

第176条

物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)

第177条

不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

目次

    そもそも「義務」とは?

    相続登記義務化の「義務」の本質は、すべきなのにしなかった場合に、10万円以下の過料に処せられるというところに意味があります。義務を果たさなかったときにペナルティがあるということがポイントです。法律上義務が定められていても、義務違反時のペナルティがなければ、単なる「努力義務」にすぎないからです。

    一番最初に、これまで不動産登記は義務ではなかったと書きました。 実は、これは、正確には誤りです。確かに権利の登記は義務ではありませんでしたが、これまでも、表示登記(表題登記)は義務化されていたのです。表示登記とは、建物の床面積はどれくらいあるのかとか、木造とか軽量鉄骨造とかいう構造などの不動産の物理的形状を示す登記のことです。権利の登記とは、所有者が誰とか抵当権がついているかなど、不動産の権利関係を示すものです。この表示登記は以前から義務化されていました。そして、相続登記と同様、表示登記を怠ると、10万円以下の過料に処せられるのです。

    「義務」をめぐる相続登記と表示登記の違い(予想)

    不動産登記法上、相続登記義務化以前から、表示登記は義務化されていました。怠ると、10万円以下の過料に処せられるのも同様です。表示登記は、例えば、建物を新築した時になされるものです。表示登記は義務であるからだけでなく、権利の登記の前提となる登記であるため、現在ではほとんどの場合登記がなされています。表示登記がなされないと権利の登記(所有権保存登記や抵当権設定登記)ができないので、住宅ローンを借りて家を購入したり新築する場合、100%表示登記がなされます。

    しかし、特に昔は、建物を建てても、表示登記がなされないことが結構ありました。繰り返しになりますが、登記しなくても、その人が物件の所有者であることには間違いなく、第三者に対抗できない(所有権を主張できない)だけだからです。言い方を変えると、建物を建てたときに表示登記をしなくても、自己資金で建築し、自分自身が住むためだけに利用する場合には、実害がないし、手間と費用をかけてまで表示登記をしようとは思わないからです。

    その結果、特に昔の、自宅用建物については、表示登記がされていない建物(未登記建物)が一定数存在するのです。

    さて、このように表示登記をするという義務を果たしていないというケースで、科料に処せられた(10万円支払った)というような話を聞いたことがあるでしょうか?聞いたことがある人はあまりいないのではないでしょうか?会社の登記(商業登記)の登記義務違反(登記懈怠)の際には、過料を支払ったという話をよく聞くのとは対照的です。

    では、相続登記義務化以降の義務違反はどうでしょうか?表示登記の義務違反のように、実際に過料が科されることはあまりないのでしょうか?私は、相続登記については、過料が科されないということはないと思っています。むしろ、積極的に過料を科していくと思っています。私は、冒頭で「ドラスティックな事」と書きました。これまでとは違う、ドラスティックな制度変更をする以上、「過料は科さない」という対応をするとは到底思えないのです。

    所有者不明土地解消につながるのかは疑問

    相続登記が義務化され、かつ、過料も積極的に科していくとなると、過料によって、相続登記を強制する効果が生まれそうです。この効果により、相続登記がなされ、結果、所有者不明土地がなくなるというのが国の目論見なわけです。しかし、相続登記義務化によって所有者不明土地が解消されるとは思えません。義務化により、現時点では所有者が明らかだが将来的に不明になりそうな土地について、所有者不明状態になる事を予防する効果は期待できると思います。一方、すでに所有者不明状態になっている土地については、解消の効果は限定的だと思われます。

    相続登記義務化以前でも、財産である不動産の名義は相続時に変えようと思うのが一般的だったはずです。にもかかわらず、相続登記をせずに放置しておいたのにはそれなりに理由があると思うのです。もちろん、面倒だから放っておいたというようなケースもそれなりにはあると思います。しかし、多くの場合、相続の話し合いがつかなかったとか、山林や荒野を相続しても意味がないからとか、子どもは全員東京に出てきて誰も継ぐ者がいないからとか、何らかの理由があり、登記をせずに放置されていたと思われるのです。しかも、10年程度放置していただけならともかく、100年も放置されている土地について、義務化されたからといって登記しようと思う人がどれくらいいるのでしょうか。

    このように考えると、相続登記義務化は、所有者不明土地問題解決に一定程度の寄与はするものの、その効果は限定的だ思わざるを得ないのです。

    無視できない相続登記の費用対効果

    これまで書いてきたことと一見矛盾するように思われるかもしれませんが、相続登記義務化により、長期間放置してきた相続登記の依頼や相談が増えてきているのは間違いないと思います。私だけでなく、同業者の多くには、その実感があるはずです。

    「曽祖父名義の田舎の山林がそのままになっている。相続登記が義務化されるから相続登記がしたい」という相談や依頼があったとします。このようなご依頼でも、相続人の全員と連絡が取れるのであれば、まだ相続登記をすることを検討する余地はあると思います。このような事例で、相続人の多くとは会ったこともないしどこにいるかわからないというような事例で、「戸籍や戸籍の附票を取得し相続人の調査をする、相続人全員とコンタクトを取り、同意をもらったうえで相続登記をする、相続登記の結果所有権が得られた土地は無価値の上、今後も訪れるようなことがない山林である」にもかかわらず、相続登記手続をしようと思う人がどれくらいいるのでしょうか?少なくとも、私は、それでもやるのですか?と質問します。もちろんすべてをご理解されたうえで、やりたいという方がいればお手伝いはしますが...。

    仮に100年くらい登記をせずに放置しておいたとすると様々な事が起こります。

    相続人の中に行方不明者がいたり、認知症の方がいたり、相続人不存在で亡くなった人がいたりしたらどうなるでしょうか?失踪宣告や不在者財産管理人の選任、成年後見制度の利用、相続財産清算人の選任手続等を費用と手間をかけて行うのでしょうか??海外在住者がいる場合、その方はサイン証明の取得等に協力してくれるのでしょうか?相続人の中に交渉が必要な相手がいたら、その交渉を代理人弁護士に頼むのでしょうか??

    ほとんど無価値の土地について、費用と手間をかけることは適切なのでしょうか。その費用対効果を無視して、相続手続をすべきではないと思います。一番の問題は、長期間放置していた相続では、何が起こるかわからないという不確定要素が多いということです。その意味でのリスクが高いのです。軽い気持ちで始めて、後で、困難な状況に陥る可能性もあり得ます。最初から困難だとわかっていて、それでもやるのならともかく、軽い気持ちで始めてしまい、途中で行き詰ってしまう人がいたら、とても残念です。そこまでにかけた手間と費用は戻っては来ないからです。

    過料が心配であれば、相続人申告登記制度を利用すればよく、困難な事例について、したくもない相続登記をする実益は全くないと思います(勿論、その土地を取得したいのなら別ですが)。

    所有者不明土地問題の解決には、別の方策が必要

    所有者不明土地問題の解決には、別の方策が必要であると考えます。

    その一例が、所有権の放棄や一部物件についての相続放棄の制度です。

    現在、所有権は放棄できないことになっています。相続土地国庫帰属制度という制度はありますが、ハードルが高く、気軽に利用できる状況にはなっていません。相続権や共有持分も含めて、国に対して所有権を放棄でいる制度があれば、相続登記の義務化よりもはるかに高い効果が期待でいると思います。

    現在、相続放棄とは、権利義務のすべてを放棄することを意味していますが、一部の土地についてのみ放棄する制度があってもよいのではないでしょうか?例えば、相続人申告登記と同様のやり方で登記簿に当該不動産の相続を放棄した人の名前を登記する制度を作り、相続放棄の申出のあった人は、当該不動産に限り、相続人から除外でいる制度とか。印鑑証明書添付を義務付けたりして本人確認を厳格にするとともに、全ての不動産ではなく、国が制度の対象とすると決めた土地以外には利用できないとかの制限を加えれば、悪用のリスクも減らせるのではないかと思います。

    特定の土地については、相続人の一人から国に対して所有権を帰属させることが出来る制度があってもよいかもしれません。例えば、地目を山林や荒野、畑などに限定するとか、広さや評価額に制限を設けたうえで、官報公告の上、他の相続人が異議を述べられる期間を長めにとるなどすれば、悪用のリスクはあまりないのではないでしょうか。

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